第169回芥川賞受賞作品
市川沙央 『ハンチバック』
私の身体は、生き抜いた時間の証として破壊されていく「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」圧倒的迫力&ユーモアで選考会に衝撃を与えた、第128回文學界新人賞受賞作。打たれ、刻まれ、いつまでも自分の中から消えない言葉たちでした。この小説が本になって存在する世界に行きたい、と強く望みました。――村田沙耶香小説に込められた強大な熱量にねじ伏せられたかのようで、読後しばらく生きた心地がしなかった。――金原ひとみ文字に刻まれた肉体を通して、書くという行為への怨嗟と快楽、その特権性と欺瞞が鮮明に浮かび上がる。――青山七恵井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす――
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第169回直木賞受賞作品
垣根涼介 『極楽征夷大将軍』
史上最も無能な征夷大将軍やる気なし使命感なし執着なしなぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。
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第168回芥川賞受賞作品
井戸川射子 『この世の喜びよ』
思い出すことは、世界に出会い直すこと。最初の小説集『ここはとても速い川』が、キノベス!2022年10位、野間文芸新人賞受賞。注目の新鋭がはなつ、待望の第二小説集。幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼び覚ましていく表題作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。ほかに、ハウスメーカーの建売住宅にひとり体験宿泊する主婦を描く「マイホーム」、父子連れのキャンプに叔父と参加した少年が主人公の「キャンプ」を収録。二人の目にはきっと、あなたの知らない景色が広がっている。あなたは頷いた。こうして分からなかった言葉があっても、聞き返さないようになっていく。
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第168回直木賞受賞作品
小川哲 『地図と拳』
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる――。ひとつの都市が現われ、そして消えた。日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
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第167回芥川賞受賞作品
高瀬隼子 『おいしいごはんが食べられますように』
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。
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第167回直木賞受賞作品
窪美澄 『夜に星を放つ』
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。
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第166回芥川賞受賞作品
砂川文次 『ブラックボックス』
ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている。自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。自衛隊を辞め、いまは自転車便メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。気鋭の作家、新境地の傑作中篇。
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九段理江 『Schoolgirl』
第166回芥川賞候補作!令和版「女生徒」どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。社会派YouTuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を同時収録。
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島口 大樹 『オン・ザ・プラネット』
「終わったのかな」「なにが?」「世界?」同じ車に乗り込んだぼくら四人は、映画を撮るために鳥取砂丘を目指す。注目の新星が重層する世界の「今」を描く、ロード&ムービー・ノベル。「これからぼくらが話すことは、人類最後の会話になるかもしれない。そうやって考えるとき、皆は何を話したい?」記憶すること、思い出すこと、未来に向かって過去をみつけ直すこと。現実と虚構の別を越えて、新しい世界と出会う旅。
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第166回直木賞受賞作品
今村翔吾 『塞王の楯』
越前・一乗谷城は織田信長に落とされた。幼き匡介(きょうすけ)はその際に父母と妹を喪い、逃げる途中に石垣職人の源斎(げんさい)に助けられる。匡介は源斎を頭目とする穴太衆(あのうしゅう)(=石垣作りの職人集団)の飛田屋で育てられ、やがて後継者と目されるようになる。匡介は絶対に破られない「最強の楯」である石垣を作れば、戦を無くせると考えていた。両親や妹のような人をこれ以上出したくないと願い、石積みの技を磨き続ける。秀吉が病死し、戦乱の気配が近づく中、匡介は京極高次(きょうごくたかつぐ)より琵琶湖畔にある大津城の石垣の改修を任される。一方、そこを攻めようとしている毛利元康は、国友衆(くにともしゅう)に鉄砲作りを依頼した。「至高の矛」たる鉄砲を作って皆に恐怖を植え付けることこそ、戦の抑止力になると信じる国友衆の次期頭目・彦九郎(げんくろう)は、「飛田屋を叩き潰す」と宣言する。大軍に囲まれ絶体絶命の大津城を舞台に、宿命の対決が幕を開ける――。どんな攻めをも、はね返す石垣。どんな守りをも、打ち破る鉄砲。「最強の楯」と「至高の矛」の対決を描く、究極の戦国小説!
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逢坂 冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』
発売前からSNSで話題! 史上初、選考委員全員が5点満点をつけた、第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作 アクションの緊度、迫力、構成のうまさは只事ではない。とても新人の作品とは思えない完成度に感服。──北上次郎 復讐心に始まった物語は、隊員同士のシスターフッドも描きつつ壮大な展開を見せる。胸アツ。──鴻巣友季子 文句なしの5点満点、アガサ・クリスティー賞の名にふさわしい傑作。──法月綸太郎 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
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彩瀬まる 『新しい星』
直木賞候補作、高校生直木賞受賞作『くちなし』から4年――私たちは一人じゃない。これからもずっと、ずっと愛するものの喪失と再生を描く、感動の物語幸せな恋愛、結婚だった。これからも幸せな出産、子育てが続く……はずだった。順風満帆に「普通」の幸福を謳歌していた森崎青子に訪れた思いがけない転機――娘の死から、彼女の人生は暗転した。離婚、職場での理不尽、「普通」からはみ出した者への周囲の無理解。「再生」を期し、もがけばもがくほど、亡くした者への愛は溢れ、「普通」は遠ざかり……。(表題作「新しい星」)美しく、静謐に佇む物語気鋭の作家が放つ、新たな代表作!
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柚月裕子 『ミカエルの鼓動』
この者は、神か、悪魔か――。気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う感動巨編。大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。あるとき、難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。大学病院の闇を暴こうとする記者は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫る。天才心臓外科医の正義と葛藤を描く。
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第165回芥川賞受賞作品
石沢麻依 『貝に続く場所にて』
第165回芥川賞候補作!コロナ禍が影を落とす異国の街に、9年前の光景が重なり合う。静謐な祈りをこめて描く鎮魂の物語。 ドイツの学術都市に暮らす私の元に、震災で行方不明になったはずの友人が現れる。人を隔てる距離と時間を言葉で埋めてゆく、現実と記憶の肖像画。第64回群像新人文学賞受賞作にして、第165回芥川賞候補作。(群像新人文学賞 選評より)記憶や内面、歴史や時間、ここと別のところなど、何層にも重なり合う世界を、今、この場所として描くことに挑んでいる小説ーー柴崎友香氏人文的教養溢れる大人の傑作曖昧な記憶を磨き上げ、それを丹念なコトバのオブジェに加工するという独自の祈りの手法を開発した――島田雅彦氏犠牲者ではない語り手を用意して、生者でも死者でもない「行方不明者」に焦点を絞った点で、すばらしい。清潔感がある。ーー古川日出男氏
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第165回芥川賞受賞作品
李琴峰 『彼岸花が咲く島』
その島では〈ニホン語〉と〈女語〉が話されていた記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった――。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。
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第165回直木賞受賞作品
澤田 瞳子 『星落ちて、なお』
鬼才・河鍋暁斎を父に持った娘・暁翠の数奇な人生とは――。父の影に翻弄され、激動の時代を生き抜いた女絵師の一代記。不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄はもとより、弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかり頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっっているのだった――。
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第164回芥川賞受賞作品
宇佐見りん 『推し、燃ゆ』
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が三島賞候補の21歳、圧巻の第二作。
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第164回直木賞受賞作品
西條奈加 『心淋し川』
「誰の心にも淀みはある。でも、それが人ってもんでね」江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、六兵衛が持ち込んだ張方をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして……(「閨仏」)。ほか全六話。生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、著者渾身の時代小説。
心淋(うらさび)し川 |
第163回芥川賞受賞作品
遠野遥 『破局』
私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。【第163回芥川賞候補作】2019年文藝賞でデビューした新鋭による第2作。
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第163回直木賞受賞作品
馳星周 『少年と犬』
傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――。犬を愛するすべての人に捧げる感涙作!2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……。
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乗代雄介 『最高の任務』
第162回芥川賞候補作の表題作と、傑作中篇「生き方の問題」を収録。「手紙」と「日記」を通して、「書く」という行為の意味を問う――。野間文芸新人賞受賞の気鋭による青春小説集! 「最高の任務」大学の卒業式を前にした私は、あるきっかけで、亡き叔母にもらって書き始めた、小学生の頃の日記帳をひもとく。日記を通して語られていく、叔母との記憶……。「生き方の問題」僕は、2歳年上の従姉に長い手紙を書き送る。幼い頃からの思慕と、一年前の久しぶりの再会について……。
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高尾長良 『音に聞く』
デビュー以来連続して芥川賞候補になってきた二十代天才女性作家が、沈黙を破り放つ決定打。作曲に天賦の才をみせる15歳の妹。母語から離れ、自らの言語表現を模索する姉。『肉骨茶』『影媛』で注目を集める高尾長良が音楽の都ウィーンを舞台に繰り広げる待望の本格芸術小説!芸術の都、ウィーンへ音楽理論の大家である父を尋ねた姉妹。妹・真名は外界との接触を拒み、内から湧きあがる音楽を汲みだす。翻訳家の姉・有智子はその天分を生かすべく心を砕くが、父の言葉によって絶望と嫉妬を思い知らされる。音楽が記憶に掬いきれない価値を刻印するなら、言葉は底に穴の空いた器に等しいのか――。音楽と言葉がぶつかり合う新鋭の傑作。
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第162回直木賞受賞作品
川越宗一 『熱源』
降りかかる理不尽は「文明」を名乗っていた。樺太アイヌの闘いと冒険を描く前代未聞の傑作!樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
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誉田哲也 『背中の蜘蛛』
ついに、ここまできた――。前人未到、孤高の警察小説が誕生した。東京・池袋の路上で男の死体が発見された。目撃者もなく捜査は難航、しかし「あること」がきっかけになり捜査が急転。それから約半年後。東京・新木場で爆殺事件が発生。こちらもな捜査はなかなか進展しなかったが、「あること」が転換点となり容疑者が浮かぶ……。捜査に携わる管理官を中心に、新時代の警察捜査を濃密に描く。著者史上、もっとも尖った警察小説。
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第161回芥川賞受賞作品
今村夏子 『むらさきのスカートの女』
近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導する。『あひる』『星の子』が芥川賞候補となった話題の著者による待望の最新作。
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高山羽根子 『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』
【第161回芥川賞候補作】おばあちゃんは背中が一番美しかったこと、下校中知らないおじさんにお腹をなめられたこと、自分の言いたいことを看板に書いたりする「やりかた」があると知ったこと、高校時代、話のつまらない「ニシダ」という友だちがいたこと……。大人になった「私」は雨宿りのために立ち寄ったお店で「イズミ」と出会う。イズミは東京の記録を撮りため、SNSにアップしている。映像の中、デモの先頭に立っているのは、ワンピース姿の美しい男性、成長したニシダだった。イズミにつれられてやってきたデモの群衆の中、ニシダはステージの上から私を見つけ、私は逃げ出した。敷き詰められた過去の記憶とともに、私は渋谷の街を思い切り走る、ニシダにつかまらないように。
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第161回直木賞受賞作品
大島真寿美 『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』
筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた。江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!
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朝倉かすみ 『平場の月』
"朝霞、新座、志木。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。
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澤田瞳子 『落花』
将門という男は、なぜかくも激しく不器用なのだ!音楽に取り憑かれ、「至誠の声」を求め旅に出た仁和寺の僧・寛朝。荒ぶる坂東の地で出会ったのは、古き法に背き、ならず者と謗られる人物だった――。土豪、傀儡女、群盗……やがて来たる武士の世を前に、混迷を生きる東国の人々。その野卑にして不羈な生き様に接し、都人はどんな音を見出すのか。父に疎まれ、梵唄の才で見返そうとする寛朝逆賊と呼ばれても、配下を守ろうとする将門下人の身にして、幻の琵琶を手にせんと策略を巡らす千歳「至誠の楽人」の名声を捨て、都から突然姿を消した是緒己の道を貫かんともがく男たちの衝突、東西の邂逅を、『若冲』『火定』の俊英が壮大なスケールで描き出す!
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原田マハ 『美しき愚かものたちのタブロー』
国立西洋美術館、開館60周年!記念すべき年に贈る、原田マハにしか書けない日本と西洋アートの巡りあいの物語。日本に初めて「美術館」という概念をもたらした破天荒な実業家、松方幸次郎。戦火のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り、日置コウ三郎。そして、敗戦国・日本にアートとプライドを取り戻した男たち――。奇跡が積み重なった、国立西洋美術館の誕生秘話。日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、そもそもは「審美眼」を持ち合わせない男だった。絵画収集の道先案内人となった田代との出会い、モネとの親交、何よりゴッホやマティスといった近代美術の傑作の数々により、美に目覚めていく松方。だが、戦争へと突き進む国内では経済が悪化、破産の憂き目に晒される。帰国した松方に代わって、戦火が迫るフランスに単身残り、絵画の疎開を果たしたのは謎多き元軍人の日置だったが、日本の敗戦とともにコレクションは数奇な運命を辿りる。美しい理想と不屈の信念で、無謀とも思える絵画の帰還を実現させた「愚かものたち」の冒険が胸に迫る感動作。
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柚木麻子 『マジカルグランマ』
正子は75歳の元女優。携帯電話のCMで再デビューを果たし、順風満帆かと思いきや、ある出来事をきっかけに事務所を解雇され、急遽お金が必要な状況に。周りを巻き込み、逆境を跳ね返す生き方はマジカルグランマ(理想のおばあちゃん)像をぶち壊す!
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