かつては厭わしさのみを感じたが,10年ほどしてあらためて読み直すと,倨傲で偏狭と見えた彼の性癖の1つ1つが,かえってその人間としての弱さや正しさの証しと見え,しみじみと心に迫ってくる親しみを覚えた,と青果(1878−1948)は言う.好悪をむきだしにして迫りながら,あくまでも客観性を失わない渾身の馬琴伝.